2018
4/21
「ヘミセクション」できるだけ歯を残す治療!
できるだけ歯を残す治療!
患者さんに、抜歯が避けられないことをお話しなければならない時は、本当に辛いものです。
患者さんの立場にたって考えてみると、ショックや悲しみ,後悔の念など計り知れないものがあると思われます。「歯周病でグラグラになってしまった」「歯が折れてしまった」「むし歯でボロボロになってしまった」「放置してしまい歯にヒビがはいってしまった」など抜歯の理由は人それぞれですが、患者さんの立場からすると、何とか歯を救ってほしい!と心から願われるのではないでしょうか!?
「グラグラでもいいから抜かないでしい!」「すぐダメになってもいいので残してほしい!」と懇願されることもよくあります。
お気持ちは本当に分かるのですが、我々歯科医師には、患者さんの未来の健康を第一に考えて、処置を施す必要があります。
問題を抱えている歯を残すことで、今後のお口の健康に悪影響を及ぼす場合には、本当に残念ですが歯を保存することは難しいのです。その場しのぎの治療をおこない、より問題を重篤なものにするわけにはいかないのです。
一方、問題を抱えている歯を保存することが、今後のお口の健康や他の歯や歯周組織に悪影響を与えず、医学的に可能な場合には、できるだけ歯を残すよう努めなければならない責任もあります。
今回、お話をするヘミセクション(歯根分割術)は、少しでも歯を保存し、歯を長持ちさせるための治療となっております。
ヘミセクション(歯根分割術)
奥歯である大臼歯には、歯の根っこ(歯根)が複数あります。一般的に下顎の大臼歯は、2本の歯根にて歯を支えています。
ヘミセクション(歯根分割術)とは、歯周病や虫歯、歯の破折などで抜歯が必要になった場合に、歯根を2つに分割して、問題がある歯根だけを抜歯し、歯を半分にして健康な歯根を利用していく方法です。
上顎の歯は、歯根が3つあるため1/3である一本の歯根のみ抜歯をする方法をトライセクションといい、1根のみを取り除き、残った2根にて歯を支えていきます。
下顎におこなうヘミセクションと比較すると、予後は芳しくないとの研究結果があります。私の臨床経験からも実感できる結果です。
抜歯後は、歯を支えている歯根を一本失うために、歯を支えるのには、不安定な状態となります。よって、隣の歯とつなげてブリッジにて処置を進めていくことが一般的な方法となっております。
今回は下顎のヘミセクション(歯根分割術)症例となっております。
下記の写真をご覧ください!
下顎の奥歯である大臼歯には、前述したように歯根が2つあります。分岐部とよばれる歯の根と根の間が破折しており、写真むかって右側の歯根(近心根)は虫歯が進行してしまい、歯根の先に膿が溜まり、レントゲン写真では黒く映っているのが分かると思います。
神経を除去してしまうと、歯への血流が遮断されてしまうため、時間の経過とともに乾燥し脆くなってしまいます。咬む力(咬合力)が最も加わる第一代位臼歯では、神経をとってから時間が経過すると、このように折れてしまうことが多くあります。体重と同じ位の咬む力を支えているのですから、いかに歯根に力がかかっているか、理解していただけるのではないでしょうか。
むし歯が進行してしまい保存不可能な右側の根っこ(近心根)を抜歯し、健康な歯根を利用するヘミセクションにて対応いたしました。
歯を真ん中から分割し、歯根の半分だけの抜歯をした状態です。傷口が治るまでは(2~3か月)、経過を観察していきます。その後、神経がない歯の予後に最も影響を与える土台作りとなります。
今回のケースでは、手前の歯にCR充填(光で固める白い詰め物)がなされていたため、充填物を除去後、必要最低限の削除量にてブてリッジを装着していくことになります。
必要以上に歯を削らない、負担をかけないことは、治療の予後にとても大きな影響を与えてしまうのです。
歯の破折を予防できるファイバーコアを装着した状態です。
残っている歯の状態にもよりますが、どれくらいブリッジを維持できるかが不安定であり、予知性の高い治療ではありませんが、試してみる価値はあると思います。今回のケースでは、神経を除去してからかなりの年月が経過していることもあり、患者さんとよく相談をし、延命処置ということでヘミセクションを選択しました。
2年もつか3年もつか…不確かな治療とはなります。しかしこのようなヘミセクション症例が長期にわたり維持されることもありますので、万全を期して治療をおこない、その後はしっかりと検診にて、歯の破折や金属の脱離などが起きていないか、経過を観察していくのことになります。また虫歯になってしまっては、せっかくの苦労が台無しになってしまいますので、歯間ブラシによる清掃は必ず必要になります。
お口の中の多くのトラブルが、歯の神経(歯髄)を除去していることに起因しており、いかに歯髄を保存することが大事かが、今回の症例からもよくわかっていただけるのではないでしょうか。
2o年、30年後の患者さんの健康を考えた上で、できるだけ歯を抜かない治療、可能な限り神経を保存する治療を、常に考えて診察を行っております。
◎ヘミセクションの利点、欠点
(利点)
〇保険適用であるため、比較的に安価である
〇患者さんからすると歯を最後まで残すため、心理的満足が得られる。
〇残っている歯の状態によっては、長期的な安定が期待できる。
〇問題がある歯の両脇の歯を削る時期を、先延ばしにできる。
(欠点)
〇多くの研究にて予知性が高くないといわれており、咬合圧(噛む力のコントロール)、口腔内の衛生状態を見極め
る必要がある。
〇治療後、短期間で歯が破折してしまった場合などでは、心理的ダメージが大きい。
〇10年経過症例では約4割が歯根破折により抜歯になるとの研究結果もある