2018
4/04
【虫歯】本当は、むし歯が原因ではないかもしれない、歯の痛み!
歯が痛むけれど虫歯ではない
まれに、歯がもの凄く痛むのに、『痛みの原因が歯ではない?』ということがあります。
通常、突然歯の痛みを感じた時には、「むし歯になってしまったかもしれない。」「お口の中に、何か問題があるのかな?」と考え、歯科医院を受診されると思います。ところが、歯科医院にて口腔内をしっかりと診査しても、特に大きな問題が見られない場合があるのです。
そのため、診察の結果、虫歯および歯肉の腫れがないにも関わらず、歯痛を感じる場合には、口腔内以外のトラブルが疑われます。
実は、歯の痛みの原因は、必ずしも歯や歯肉であるとは限らないのです。
このような、口腔内の問題(歯や歯肉に異常がない)以外、口腔内とは関係ない原因から引き起こされる歯の痛みの事を、非歯原性歯痛といいます。今回のブログでは、その非歯原性歯痛のひとつである『上顎洞炎』についてのご説明をいたします。
以前、武蔵新城駅前の診療所で診察をおこなっていた頃に、一緒に働いていた歯科衛生士のSさん(仮称)が居ました。数年前に当院を退職して引っ越ししてしまったのですがある日、数年ぶりに彼女から当院に連絡がありました。
よく話を聞いてみると左上の奥歯が痛くて夜も寝られず、左側で噛むことも出来ず、アゴまで不調との事でした。何件か地元の歯科医院を受診してみたが原因が分からず、以前勤務していた当院にSOSの電話をもらいました。
実は、Sさんは引っ越してしまっていたため、現在の居住地は遠方になります。
多少、移動に時間はかかるのですが、至急、当院のクリニックまで来てもらい症状を確認してみました。
上顎洞炎とは
すぐ診察をしてみたところ、左上の6番目の歯(第一大臼歯)に強い痛みがあり、少したたいただけでも強い違和感を感じるようです。この症状はとても深刻で、夜になると痛みが増すとの事です。
口腔内の診察の結果、虫歯、歯肉、知覚過敏、かみ合わせ等には、全く問題は見当たりません。
さすが歯科衛生士と思わせる、とても清掃の行き届いた口腔内の状態でした。
さらに、歯の破折や他の疾患も視野にいれ、精密な情報を得るためにCT撮影を行い状態を確認してみました。
その結果、痛む歯がある左側の『上顎洞炎』が疑われることが判明したのです。
上顎同炎という病名は聞きなれないかもしれませんが、読んで字のごとく上顎洞に炎症が起きている状態です。一般には、蓄膿症(副鼻腔炎)とよばれている耳鼻科領域の病気になります。上顎洞とは副鼻腔中の一つで顔の頬のあたりにある上顎、頬骨、鼻に囲まれた空洞です。
鼻の穴(鼻腔)のまわりには、前頭洞、篩骨洞、蝶形骨洞、上顎洞とよばれる4つの空洞が左右2対ずつ、合計で8つあります。
これらの空洞をまとめて副鼻腔とよびます。副鼻腔には数多くの突起があり、とても複雑な形態をしており、それぞれの空洞が交通した状態で存在しています。副鼻腔の中の一つである、上顎洞に炎症があり膿が溜まっているものが上顎同炎です。上顎洞と口の中は近接しているため、歯科治療においても抜歯、根の治療、インプラント処置などで注意が必要となってくる部位です。よって、歯科医師も炎症などに気をつける部位ですので、正常な状態との違いが瞬時に発見できたと考えています。
上顎洞炎には、歯性上顎洞炎と鼻性上顎洞炎の2種類があります。
時に、歯の問題が原因で上顎洞(副鼻腔)に細菌が感染して炎症を引き起こすこともあるのです。これは、上顎洞炎の約20%をしめますので、口腔内のトラブルを解消させることが治癒につながります。
歯性上顎洞炎と鼻性副鼻腔炎
歯性上顎洞炎の原因としては、歯根嚢胞(歯の根の先にできた膿の袋)、虫歯を放置してしまったり治療を途中で中断した場合などに起こります。他には、金属の中での虫歯の進行、重度の歯周病、親知らず、歯の根っこの破折、などからの感染が主なものとなります。
そして、歯性上顎洞炎の症状としては、頭痛、目の奥の不快感、体を動かした時に響く、鼻がつまる、歯の痛みやものを噛んだときに痛む、口臭などがあります。
もう一つ、歯のトラブルに起因するものではない鼻性副鼻腔炎についても説明します。
この鼻性副鼻腔炎の原因は、風邪の細菌やウイルスが鼻腔に感染して炎症をひき起こし、炎症が鼻腔から副鼻腔にまで波及することにより副鼻腔内の粘膜が腫れてきます。炎症が長く続いたり、さらに風邪を繰り返して免疫力がおちてしまい、症状が3ヵ月以上続くものを慢性副鼻腔炎とよばれます。
両親が副鼻腔炎の場合は、子供も副鼻腔炎を発症することも多く、遺伝的な原因もあると考えられています。
それでは、CT画像をみてみましょう。
上記が、今回撮影したCT画像です。上顎洞を真上からみたものになりますが、左右で黒の色調が違うのがわかります。
さらに、左右を比較してみると、右のほうが白っぽく写っているのが分かります。これは炎症が起きることによって上顎洞内に鼻汁(鼻にたまった膿)が溜まった状態です。正常な時と比べて白っぽく映るのです。
そして、今回の歯の痛みのように感じた現象の説明をします。
実は、上顎の奥歯の根っこは上顎洞内に入り込んでいるため、上顎洞内の炎症が歯の神経を刺激して痛みを引き起こすのです。これが、Sさんが長い間苦しんだ痛みの原因です。
今回のSさんのケースは、鼻性上顎洞炎から起こる歯の痛みであったので、すぐに耳鼻科にいってもらい、抗生物質により数日で痛みは消失しました。
他の歯科医院では解決できませんでしたが、当院のCTによる精密な情報によりスピーディに診断に至りました。
最後に、歯性上顎洞炎の症例もご紹介してみたいと思います。下記は歯性上顎洞炎のCT画像です。
埋まっている親しらずが確認できます。この親しらずの周りにバイ菌がたまり、そのバイ菌が上顎洞内に侵入し、上顎洞内に膿がたまっているのが白い像となっているのが分かると思います。このように親しらずが原因で上顎洞炎を起こしてしまった場合の解決策としては抜歯となります。
今回は、非歯原性疼痛の一つである上顎洞炎のお話でしたが、これ以外にも数多く存在します。筋・筋膜性歯痛、神経血管性歯痛、心臓性歯痛、精神疾患による歯痛、特発性歯痛などですが、これらの疾患につきましてはまたの機会にブログで説明したいと思います。
以上のように、たとえ、歯の痛みを感じたとしても、必ずしも口腔内に問題があるとは限りません。歯医者さんにて診察してもらっても、何も問題が無いと言われても、痛みが続くようであれば、やはりCT撮影のできる歯科医院などで精密検査をしてもらう必要があります。もちろん、最初から耳鼻科に行けば解決するかもしれませんが、一般の患者さんでは、その判断がつきません。せめて、CT撮影などで詳しく調べてくれる歯科医院を選択することをお勧めします。
当院では、院内にCTスキャンを常設しています。安心してご相談いただければと思います。